第五話 保身

      2019/07/15

「私はこの人と離婚します」

 

「慰謝料と養育費、きっちりと払ってもらいますからね」

 

第四話 「暴露」

 

彼女の告発によって

 

僕は

 

頭の中が真っ白になった。

 

人生で初めて真っ白になった。

 

彼女の発言中、心の中で

 

『あ・・・』

 

『もう俺は終わった・・・』

 

とつぶやいて

 

もうあとは何も浮かばなかった。
体も動かなかった。

 

父親は黙ってノートをめくる。

 

母親は呆然としている。

 

母「これは・・・なんなの?」

 

明らかに動揺していた。

 

父はノートのページを何枚も何枚もめくった。

 

最後まで見終わった父親は

 

僕に顔を向けて言った。

 

父「お前」

 

父「聞いていた話と違うぞ」

 

僕は、父の目を見た。久々に見る、怒りの目であった。

 

僕は、きっと蛇に睨まれたカエルのような顔をしていただろう。

 

父「ちゃんと説明しろ」

 

頭が全然働かなかった。

 

無だった。

 

まさしく無だった。

 

逃げ場は無い。

 

無いはずなのに。

 

僕は、自分を守った。

 

思えばここで正直に白状しておけばよかったかもしれない。

 

だが、自分がやった事を、この時はとてもじゃないが奥さんや両親に言えなかった。

 

現実から、僕は逃げた。

 

何も考えてない状態から発する言葉が

 

人の本質を表しているのだとすれば、

 

僕は間違いなく汚い人間だ。

 

苦し紛れの言い訳を始めた。

 

「僕は、、、やってないよ」

「実は僕は女の子と男を仲介、斡旋していて、

この子達は紹介するために仲良くなってるんだよ」

「副業でやっていたんだ」

 

父「・・なんだ?その仕事は」

 

「そういうニーズがあったから、生活のために、やってたんだ」

 

今振り返っても恥ずかしい、なんとも聞き苦しい、バレバレの嘘をついた。

 

父「おい」

 

父は、僕を睨みつけながら言った。

 

父「お前、、俺を甘くみてんじゃねえぞ

 

父「俺は今まで何人も嘘をつくやつを見てきたんだ」

 

父「俺を騙せると思うなよ」

 

 

父は、仕事上汚い事をする人間をたくさん見てきた。

 

父は、頭がキレて、仕事ができる。が、怒りっぽい。

 

平気で部下を怒鳴りつけるような、現代では100パーセントパワハラで訴えられるような人間だった。部下は皆、父を恐れていた。

 

反面、まっすぐな性格と上に媚びない姿勢、人によって態度を変えない性格が社内でも周知されており、一目おかれ、慕われていた。

 

仕事を引退した今も、年に一度、会社のOB会開催中に、元部下達からの飲み会の招待が絶えない。とかく人望が厚い。

 

そんな父を、僕は尊敬していた。

 

結婚して、孫ができて、父も母もとても喜んでくれた。

 

鬼のように怖かった父が、フニャフニャな顔で孫を可愛がった。

 

そんな姿を見て、これからも喜ばせてあげたいなと思っていた。

 

だが今は、喜ばせるどころか、怒りに震えている。そして、悲しませてもいた。

 

父に睨まれ、僕は固まった。

何も言葉を発する事ができない。

 

完全に思考停止した。

 

自分の表情がどういう風か考える余裕もない。

 

しばらく、沈黙が続く。

 

 

ふと、奥さんがつぶやいた。

 

「そんな事で儲けたお金で私と子供を養ってほしくない」

 

奥さんは、僕の話を嘘と斬って捨てなかった。

 

確固たる証拠を見せろと言うわけでもなく。

 

僕の話が本当か嘘かなんてどうでもよい。

 

そんな些細な話で時間と神経を削りたくない。

 

本当だとしても僕を許さないというハッキリとした意思表示。

 

こんな緊張状態の中でも冷静さを欠かない、彼女の聡明さを感じた場面であった。

 

今まで呆然としていた母が、沈黙を破った。

 

母「これって、本当にこの子と女の子のやり取りなの?」

 

この発言に、奥さんの顔つきが変わった。

 

「私が・・・」

 

「私が嘘の証拠を持ってきたというんですか!!!」

 

母が疑問に感じたのも無理はない。ここ最近になってようやく携帯のメールの使い方を覚えたのだ。

 

ましてやラインなんて知るはずもない。

 

そんな母が、この会話が僕と女の子達とのやり取りの証拠という事がまず理解できないのは当然であった。

 

母は、この吹き出しの連続でしかないキャプチャ写真が何なのか、純粋に聞きたかっただけなのだ。

 

だが、彼女は嘘の証拠と言われたと感じた。

 

否定されたと感じた。

 

彼女は勇気を振り絞って僕の実家に乗り込んで来た。

 

僕と決着をつけるために1人で飛び込んで来た。

 

もの凄く恐かったと思う。

 

もの凄く緊張していたと思う。

 

もの凄く心細かったんだと思う。

 

そんな彼女にとって、母が味方になってくれると思っていたに違いない。

 

この場で唯一の同じ女性。

 

自分の気持ちに共感してくれるであろう、唯一の味方。

 

それが、味方になるどころか、自分の出した証拠を疑われた。

 

彼女からすれば、母は自分の味方ではなく、息子の僕を守ったとしか思えなかった。

 

彼女は、強い口調で母に言い返した。

 

「ここまで証拠を見せたのに信用しないんですか!!!」

 

「どれだけ自分の息子が可愛いんですか!!」

 

大声をあげた。

 

今まで我慢していたものが爆発したような、

 

激しい怒りであった。

 

母は、そういうつもりで聞いたのではないという顔をしていた。

 

そして、今まで息子の妻として可愛がっていた彼女から向けられた、敵意むき出しの感情に驚き、動揺していた。

 

母がなじられているのは自分のせいだ。

 

贔屓目に見ても、母は奥さんに対してよくしてくれていた。

 

僕と奥さんが喧嘩して奥さんが思わず泣いた際は一生懸命彼女を慰めてくれたり、奥さんの誕生日にはプレゼントを送ってくれたり、一緒に買い物に行って服を買ってくれていた。

 

そんな母に対する彼女の態度が、許せなかった。

 

「母に対して偉そうな口を聞くな!!」

 

自分はいくらなじられてもいいと思ったが、父や母は全く関係がない。耐えられなかった。

 

彼女と僕は、激しい言い争いになった。

 

父「おいやめろ!!!!」

 

父に制止され、収まった。

 

そして、父は、

 

僕に向かってこう言った。

 

父「お前はとんでもない奴だな」

 

父「お前だけはいい奴と思っていたのに」

 

父「お前は・・・」

 

父「お前の兄貴以上に悪い奴だ」

 

この言葉を浴びて

 

僕の

 

心の中にある様々な感情をせき止めていた防波堤が

 

一気に壊れた

 

息が出来なくなった

 

呼吸が乱れた

 

全身が震えた

 

目から大粒の涙が溢れ出た

 

次から次へと溢れ出た

 

声を出して泣いた

 

みんなの前で、泣いた

 

まるで幼い子供のように

 

泣いた

 

 

「うううああああああぁぁぁっ!!!!」

 

 

続く

 

 

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