
「どうして彼女は来ないんですか!!」
やり場のない怒りを、調停員にぶつけた。
この回の調停は全くの徒労に終わった。
帰宅後、裁判所から連絡があったので
今回の件の苦情を言った。
「奥さんと話すために調停に来てるんですよ!」
「彼女がいない調停なら意味がないじゃないですか!」
「そういう時は取りやめますのですぐに連絡してくださいよ!!」
「ううう・・」
始めは語気が荒かったが、話してるうちに悲しくなり、涙声になった。
「それは・・・我々の配慮が足りていなかったです」
裁判員は配慮が足りなかった点を認めてくれた。
「次回から奥様が欠席なさる場合、必ずお知らせします」
「・・・お願いします」
・・・こういうやり取りはもうこりごりだ・・。
奥さんが出て行ってから、毎日が空虚だった。
僕は、奥さんが出て行った年の12月を思い出していた。
季節はクリスマス。
僕は仕事の後、とぼとぼと歩いていた。
街のイルミネーションが眩しい。
行き交う人々に視線を落とす。
腕を組んだカップルが幸せそうに歩いてる。
街だけでなく、歩いている人々も眩しい。。
街が浮かれてる。
みんな浮かれている。
周囲の雰囲気と違い、僕1人だけが沈んでいるように思える。
街にいたくない。
僕は周りが見えないように下を向き、うつむきながら電車に乗り込み、家路についた。
地元駅に到着し、コンビニに寄る。
店内もクリスマス一色だ。
チキンやケーキが売っていた。
・・・クリスマス気分だけでも味わおう。
チキンとケーキをカゴにいれ、レジに向かう。
レジには、馴染みの店長さんがいた。
奥さんと子供を連れて何度も訪れたコンビニ。
子供が笑顔を振りまくと、店員さん達も微笑んでいた。
僕たち家族は店員さん達に覚えられていた。
とりわけ、店長は明るい人で客が入店すると元気よく
「いらっしゃいませー〜!」
「おお、こんにちは!」
と挨拶してくれていた。
「また買いに来てねー!」
店長が手を振ると、子供も嬉しそうに手を振り返していた。
・・・
奥さんが出て行ってから、このコンビニに行かなくなっていた。
店長はもちろん僕を覚えいてるはず。
今は、僕が1人で
チキンとケーキを買いに来ている。
あああ、
気まずい・・。
カゴにいれたケーキを置いて帰りたくなった。
レジに並ぶ。
僕の番になる。
店長と向かい合う。
僕は、無言でカゴを置いた。
僕は、店長の目を見ることができなかった。
店長は、僕に気づいているはずだが、
無言でチキンのバーコードを読み取る。
会計を済ます。
僕はうつむきながら、店を出た。
店長は、僕に話しかけてこなかった。
「ありがとうございましたー!」
昔と変わらない、元気な挨拶だった。
家に帰り、1人ぼっちでクリスマスを過ごした。
チキンを頬張る。
去年のクリスマスは家族でレストランで食事をした。
ケーキを1人で頬張る。
去年はサプライズで奥さんにクリスマスプレゼントを贈り、嬉し涙を流していた。
今年は1人でクリスマス。
なんなんだ、この落差は・・・・。
悲しさと寂しさで
涙が頬をつたう。
「うううう」
「寂しいよお・・・」
調停開始から一年になろうとしていた。
話し合いは平行線のままで、僕は疲弊していった。
このままいくと、調停不成立となり、裁判となる。
弁護士を立て、費用がかさむ。
もっとキツい生活が始まる。
アラフォーのおっさんが
1人で過ごす毎日は寂しい。
彼女や奥さんがいないおっさんはみんな分かってくれると思う。
誰か新しい人を探すべきなのかもしれない。
『もう、限界かもしれない・・・』
彼女を説得できなければ、離婚となる。
だが、もう説得材料は尽きていた。
彼女もできるだけ長引かせたくない筈だ。
長期化するのはお互いにとって不幸だ。
不本意だけど、仕方がない。
僕の方が悪いのだから。
子供のためにも離婚しないでくれといくら懇願しても
「あなたが原因だから」
この言葉で全ての話が終わる。
「離婚するにあたって子供が不幸になるのも」
「全てあなたのせいです」
いくら改善を修復しようとしても
聞き入れてもらえなくなった。
みんなを不幸にさせないために
夫婦仲を改善させるために
離婚を思いとどまる
最後の砦として、この調停はあるのではないか・・
僕は、関係修復するために全力を尽くすのに
家庭を幸せにするためだけに全力を尽くすのに
諦めの気持ちが芽生えてきた。
僕は、この頃から
離婚取りやめから
調停が成立するような
妥協点を見出していくように
方針を変更していった。
続く
【おすすめカテゴリ】
ツイッターでは、今後の記事投稿やナンパに役立つ情報を発信しています